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陰にとて立ち隠るれば唐衣
濡れぬ雨降る松の声かな

歌の意味
木陰に入ろうと松の下に立ち隠れると、衣は濡れないのに雨が降るように聞こえる、松風の音であることよ。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1683

詞書「人のもとにまかりて、これかれ松の陰に下りゐて遊びけるに」
 松の声を詠む一首である。木陰に入ろうと松の下に立ち隠れると、衣は濡れない雨の降るような松風の音がすると詠む。詞書によれば、人のもとを訪ね、人々が松の木陰に下りて座り遊んだ折の歌である。
 作者の「貫之」は、紀望行の子で、『古今和歌集』の撰者の一人である。仮名序を書き、『土佐日記』を著した。

 初句「陰にとて」は、木陰に入ろうとして、の意である。
 二句「立ち隠るれば」は、立って身を隠すと、の意である。已然形に「ば」が付き、確定の条件を表す。
 三句「唐衣」は、美しい衣である。体言で句が切れる三句切れで、次の「濡れぬ」へと続く。
 四句「濡れぬ雨降る」は、衣は濡れないのに雨が降る、の意である。松風の音を雨の音に聞きなしている。本巻の第千六百三十八首の「袖にしぐるる庭の松風」とも、松風を雨にたとえる点で響き合う。
 結句「松の声かな」は、松の声であることよ、の意である。「かな」の詠嘆で、雨と思った音の正体を明かして結ぶ。前の一連の荒れた故郷から一転し、人々の遊ぶ松陰の明るい景が詠まれる。

からころも:美しい衣
まつのこゑ:松に吹く風の音
作者
紀貫之
出典
新古今和歌集
前の歌
これや見し昔住みけん跡ならん 蓬が露に月のかかれる
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石上古りにし人を尋ぬれば 荒れたる宿に菫摘みけり