古典和歌stream

なげきこる身は山ながら過ぐせかし
憂き世の中に何帰るらん

歌の意味
投げ木を伐るように嘆きを重ねる身は、山にいるままで過ごせばよいのに。どうしてつらい世の中へ帰って行くのだろうか。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1687

詞書「ものへまかりける道に山人あまた逢へりけるを見て」
 山人を詠む一首である。投げ木を樵る山人に、嘆きを重ねる身ならば山にいるままで過ごせばよいのに、どうして憂き世に帰るのかと詠む。詞書によれば、出かける道で多くの山人に出会ったのを見て詠んだ歌である。
 作者の「赤染衛門」は、赤染時用の娘で、大江匡衡の妻となった。藤原道長の妻倫子と娘の中宮彰子に仕えた。

 初句「なげきこる」の「なげき」には、「嘆き」の意と、薪にする「投げ木」が掛けられている。「樵る」と「投げ木」は縁語である。
 二句「身は山ながら」は、その身は山にいるままで、の意である。
 三句「過ぐせかし」は、過ごせばよいのに、の意である。「かし」は念を押す終助詞で、ここで句が切れる三句切れとなる。
 四句「憂き世の中に」は、つらい世の中に、の意である。
 結句「何帰るらん」は、どうして帰るのだろうか、の意である。「らん」は原因を推量する。樵の暮らしを嘆きの身に見立て、嘆きならば山に籠ればよいのにと、世を捨てられない人の心を問う。本巻の第千六百四十一首や第千六百六十九首と同じく、「なげき」の掛詞を用いる。

なげき:嘆きの意と、薪にする投げ木を掛ける
こる:木を伐る
やまびと:山で木を伐るなどして暮らす人
作者
赤染衛門
出典
新古今和歌集
前の歌
わくらばに訪はれし人も昔にて それより庭の跡は絶えにき
次の歌
秋されば狩人越ゆる立田山 立ちても居ても物をしぞ思ふ