古典和歌stream

あし鴨の騒ぐ入江の水の江の
世にすみがたき我が身なりけり

歌の意味
葦辺の鴨が騒ぐ入江の水が澄みにくいように、この世に住みにくいわが身であることだ。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1707

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 世に住みがたい身を嘆く歌で、次歌と初句「あし鴨の」を共有して対をなす。鴨が騒いで入江の水が濁り澄みにくいように、この世に住みにくいわが身だ、と詠む。水辺の景を序として、世に身の置き所のない嘆きを導いている。
 作者の「人麿」は柿本人麻呂である。飛鳥時代、持統、文武両天皇の朝廷に仕えた歌人で、『万葉集』を代表する作者である。後世、人麻呂の作と伝えられる歌が勅撰集に多く採られたが、実作であるか確かでないものも含まれる。

 初句「あし鴨の」は、葦の生える水辺にいる鴨をいう。次歌も同じ初句で始まり、二首が並べられている。
 二句「騒ぐ入江の」は、鴨が騒ぎ立てる入江、の意である。鴨の騒ぐさまが、水を濁らせるものとして置かれる。
 三句「水の江の」は、入江の水をいう。ここまでの三句が序詞で、水が「すみがたき」ことを導く。
 四句「世にすみがたき」の「すみ」は、水が澄む意と、世に住む意とを掛ける掛詞である。序詞の水の景から、一語で人の世へと転じている。
 結句「我が身なりけり」の「けり」は、気づきを表す詠嘆の助動詞である。住みにくいのはほかならぬわが身だと思い知る形で、一首を結んでいる。

すむ:水が澄む意と、世に住む意を掛ける
いりえ:海や湖が陸地に入り込んだ所
作者
柿本人麻呂
出典
新古今和歌集
前の歌
いかにせむ身をうき舟の荷を重み 終の泊りやいづこなるらむ
次の歌
あし鴨の羽風になびく浮草の 定めなき世を誰か頼まむ