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浜千鳥ふみおく跡のつもりなば
かひある浦にあはざらめやは

歌の意味
浜千鳥が踏み残してゆく足跡のように、書き残した筆の跡が積もったならば、貝のある浦に出会うように、報われるときにめぐりあわないことがあろうか。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1726

詞書「最慶法師千載集書きてたてまつりける包紙に、墨を磨り筆を染めつつ年ふれど書きあらはせる言の葉ぞなき、と書きつけて侍りける御返し」
 歌の書写や撰集にかかわる歌の一首目である。浜千鳥の足跡のように書き残した筆跡が積もれば、貝のある浦に出会うように、報われる日にめぐりあわないはずがあろうか、と詠む。詞書によれば、最慶法師が『千載和歌集』を書写して献上した際、包紙に、年を経て書き続けても自分の歌として書き表せる言葉がない、と書き付けていたことへの返歌である。書写の労をねぎらい、励ます心がこもる。
 作者の「後白河院」は後白河天皇である。鳥羽天皇の皇子で、譲位後長く院政を行った。今様を好んで『梁塵秘抄』を編み、藤原俊成に『千載和歌集』の撰進を命じた。
 原文の詞書には「御御(御$)返し」とあり、重なった「御」を一つ削る注記と解して「御返し」とした。

 初句「浜千鳥」は、浜辺にいる千鳥である。千鳥の足跡は、文字や筆跡のたとえとされる。
 二句「ふみおく跡の」の「ふみ」は、千鳥が踏む意と、文すなわち書き物の意とを掛ける掛詞である。足跡と筆跡とが一語で重ねられている。
 三句「つもりなば」は、積もったならば、の意である。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形で、「ば」とともに仮定条件を表す。書写の労が積み重なることをいう。
 四句「かひある浦に」の「かひ」は、浦の貝の意と、甲斐すなわち報いの意とを掛ける掛詞である。「浦」は前歌の大淀の浦から続く。
 結句「あはざらめやは」の「やは」は反語の終助詞で、出会わないことがあろうか、必ず出会う、の意となる。最慶の嘆きに対し、努力は必ず報われると励ましている。

ふみ:千鳥が踏む意と、文(書き物)の意を掛ける
かひ:貝の意と、甲斐(報い)の意を掛ける
つつみがみ:物を包む紙
作者
後白河天皇
出典
新古今和歌集
前の歌
大淀の浦に刈り干すみるめだに 霞に絶えて帰る雁がね
次の歌
滝つ瀬に人の心を見ることは 昔に今も変はらざりけり