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その山と契らぬ月も秋風も
すすむる袖に露こぼれつつ

歌の意味
どの山にと約束したわけでもないのに、月も秋風も山住みを勧めるので、その袖に涙の露がこぼれ続けている。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1762

詞書は前の歌に続き「和歌所にて述懐の心を」
 和歌所で述懐の心を詠む一連の六首目で、藤原家隆の歌三首の三首目である。どの山に住もうと約束したわけでもないのに、月も秋風も山住みを勧めるように身にしみ、袖に涙の露がこぼれ続ける、と詠む。世を離れたい心と、それを果たせない身との間で揺れる思いを述べている。
 作者の「家隆朝臣」は藤原家隆である。原文に作者名はなく、前歌から続く。藤原光隆の子で、『新古今和歌集』の撰者の一人である。宮内卿に至り、藤原定家と並び称された。

 初句「その山と」は、どこそこの山にと、の意である。隠棲する山を特に定めていないことをいう。本巻の第千七百五十七首で慈円が「山里に契りし庵」を詠んだのと対照をなす。
 二句「契らぬ月も」は、約束したわけでもない月も、の意である。
 三句「秋風も」は、身にしみる秋の風をいう。月とともに、秋のもの思いを誘うものとして並べられる。
 四句「すすむる袖に」は、山住みを勧める、その袖に、の意である。月と秋風とが出家を勧めるように感じられることをいう。
 結句「露こぼれつつ」は、涙の露がこぼれ続けて、の意である。「つつ」で結び、尽きない涙と、決心のつかない心の揺れを余韻として残している。

すすむ:勧める。促す
作者
藤原家隆
出典
新古今和歌集
前の歌
和歌の浦や沖つ潮合に浮かび出づる あはれ我が身の寄るべ知らせよ
次の歌
君が代にあへるばかりの道はあれど 身をば頼まず行く末の空