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川舟の上りわづらふ綱手縄
くるしくてのみ世をわたるかな

歌の意味
川舟が流れをさかのぼりかねて引く綱手縄をたぐるように、苦しい思いばかりをしてこの世を渡ってゆくことだ。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1775

詞書「入道前関白家百首歌よませ侍りけるに」
 川の流れに寄せて身を嘆く歌の一首目である。川舟が流れをさかのぼりかねて綱手縄をたぐるように、苦しい思いばかりをして世を渡ってゆく、と詠む。思うように進まない世渡りの苦しさを、川舟を引く姿に託している。詞書によれば、入道前関白の家で詠ませた百首歌の中の歌である。
 作者の「刑部卿頼輔」は藤原頼輔である。藤原忠教の子で、刑部卿に至った。蹴鞠に優れ、その家の祖とされる。
 入道前関白は九条兼実で、その家で催された百首歌である。

 初句「川舟の」は、川を行く舟をいう。ここから三句までが序詞で、「くるし」を導く。
 二句「上りわづらふ」は、流れをさかのぼりかねる、の意である。思うように進まない身の上が重ねられる。
 三句「綱手縄」は、舟を岸から引くための綱である。綱を「繰る」ことから、四句の「くるし」を導いている。
 四句「くるしくてのみ」の「くる」は、綱を繰る意と、苦しい意とを掛ける掛詞である。「のみ」が、苦しさばかりであることを強める。
 結句「世をわたるかな」の「わたる」は、川を渡る意と、世を渡って暮らす意とを掛ける掛詞である。「かな」は詠嘆の終助詞で、苦しい世渡りへの嘆きで結ぶ。次歌も川の流れに寄せて身を嘆く。

つなでなは:舟を岸から引くための綱
くる:綱をたぐる意と、「苦し」の意を掛ける
わたる:川を渡る意と、世を渡って暮らす意を掛ける
作者
藤原頼輔
出典
新古今和歌集
前の歌
つくづくと思へばやすき世の中を 心と嘆く我が身なりけり
次の歌
老いらくの月日はいとどはやせ川 返らぬ波に濡るる袖かな