古典和歌stream

なにとなく聞けば涙ぞこぼれぬる
苔の袂に通ふ松風

歌の意味
何ということもなく聞いていると涙がこぼれてしまう。苔の衣の袂に吹き通う松風よ。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1795

詞書は前の歌に続き「春日社歌合に松風といふことを」
 松を詠む歌の五首目である。何ということもなく聞いていると涙がこぼれる、墨染の衣の袂に吹き通う松風よ、と詠む。出家の身に吹き寄せる松風の音に、訳もなく涙を誘われる心を述べている。
 作者の「宜秋門院丹後」は、源頼行の娘で、後鳥羽天皇の中宮宜秋門院任子に仕えた女房である。のちに出家した。

 初句「なにとなく」は、何ということもなく、の意である。理由のない涙であることを示す。
 二句「聞けば涙ぞ」は、聞いていると涙が、の意である。係助詞「ぞ」が三句の結びへ係る。
 三句「こぼれぬる」は、係助詞「ぞ」を受けて完了の助動詞「ぬ」の連体形「ぬる」で結ぶ係り結びである。ここで句切れとなる。
 四句「苔の袂に」の「苔の袂」は、僧尼の着る墨染の衣の袂をいう。出家した作者の身を示す。
 結句「通ふ松風」は、袂に吹き通う松風である。前歌と同じ題で、前歌が松風に告げてほしいと願ったのに対し、本歌では松風が涙を誘うものとして詠まれる。

こけのたもと:僧尼の着る衣の袂。苔の衣とも
かよふ:吹き通う
作者
宜秋門院丹後
出典
新古今和歌集
前の歌
春日山谷の埋もれ木朽ちぬとも 君に告げこせ峰の松風
次の歌
みな人の背きはてぬる世の中に ふるの社の身をいかにせむ