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みな人の背きはてぬる世の中に
ふるの社の身をいかにせむ

歌の意味
人々がみな背き捨ててしまった世の中に、布留の社のように古びたまま世に経るこの身を、どうしたらよいのだろう。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1796

詞書「草子に葦手長歌など書きて奥に」
 世に残る身を嘆く歌である。人々がみな世を捨てて出家してしまった世の中に、布留の社のように古びて世に経るこの身をどうしたらよいのか、と詠む。親しい人々が出家してゆく中で、ひとり世に取り残された身の寂しさを述べている。詞書によれば、草子に葦手や長歌などを書いた奥に書き付けた歌である。
 作者の「女御徽子女王」は、醍醐天皇の皇子重明親王の娘で、伊勢の斎宮を務めたのち村上天皇の女御となり、斎宮女御と呼ばれた。三十六歌仙の一人に数えられる。
 布留の社は大和国、今の奈良県天理市の石上神宮で、古くからの社として「古る」と掛けて詠まれる歌枕である。

 初句「みな人の」は、人々がみな、の意である。
 二句「背きはてぬる」は、すっかり背き捨ててしまった、の意である。人々が次々に出家したことをいう。
 三句「世の中に」は、そのような世の中に、の意である。
 四句「ふるの社の」の「ふる」は、地名の布留と、古る、世に経る意とを掛ける掛詞である。古い社のように、古びて世に残る身をたとえる。
 結句「身をいかにせむ」は、この身をどうしたらよいのか、の意である。世を捨てた人々と、残された自分との対比で、取り残された嘆きを示している。

ふる:地名の布留と、古る、世に経る意を掛ける
あしで:文字を葦や水鳥などの絵のように崩して書く書き方
さうし:紙をとじた書物
作者
徽子女王
出典
新古今和歌集
前の歌
なにとなく聞けば涙ぞこぼれぬる 苔の袂に通ふ松風
次の歌
衣手のやまゐの水に影見えし なほそのかみの春ぞ恋しき