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衣手のやまゐの水に影見えし
なほそのかみの春ぞ恋しき

歌の意味
山藍で摺った衣の袖が、山の井の水に影を映していた、あの昔の春がやはり恋しい。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1797

詞書「臨時祭の舞人にてもろともに侍りけるを、ともに四位して後、祭の日つかはしける」
 昔の祭を懐かしむ贈答の一首目である。山藍で摺った衣の袖が山の井の水に影を映していた、あの昔の春がやはり恋しい、と詠む。詞書によれば、臨時祭の舞人としてともに奉仕した人に、ともに四位に昇って舞人を務めなくなった後、祭の日に贈った歌である。若き日の晴れの務めを懐かしんでいる。
 作者の「実方朝臣」は藤原実方である。藤原定時の子で、左近中将となったが、のちに陸奥守として下り、任地で没した。
 臨時祭は、賀茂社や石清水八幡宮で例祭とは別に行われた祭で、若い殿上人が舞人を務め、東遊を奏した。

 初句「衣手の」は、衣の袖の、の意である。舞人の着る衣の袖をいう。
 二句「やまゐの水に」の「やまゐ」は、舞人の衣を摺る山藍の意と、山の井すなわち山の清水の意とを掛ける掛詞である。
 三句「影見えし」は、影が映って見えた、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、昔の舞人姿を思い起こしている。
 四句「なほそのかみの」は、やはりあの昔の、の意である。「かみ」に祭の神を響かせるとも解される。
 結句「春ぞ恋しき」は、係助詞「ぞ」を受けて形容詞の連体形「恋しき」で結ぶ係り結びである。舞人として奉仕した若い日の春を恋い慕う心で結ぶ。次歌も「やまゐの衣」を詠む。

やまゐ:山藍の意と、山の井(山の清水)の意を掛ける
まひびと:祭などで舞を奉納する人
ころもで:袖
作者
藤原実方
出典
新古今和歌集
前の歌
みな人の背きはてぬる世の中に ふるの社の身をいかにせむ
次の歌
いにしへのやまゐの衣なかりせば 忘らるる身となりやしなまし