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いにしへのやまゐの衣なかりせば
忘らるる身となりやしなまし

歌の意味
昔の山藍摺りの衣がなかったならば、わたしはあなたに忘れられる身となっていただろうか。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1798

詞書「題しらず」
 昔の祭を懐かしむ贈答の二首目にあたる歌である。昔ともに着た山藍摺りの衣がなかったならば、自分は忘れられる身となっていただろうか、と詠む。詞書は題しらずであるが、前歌の「やまゐ」を受けて、ともに舞人を務めた縁があったからこそ思い出してもらえたと応じる形をとっている。
 作者の「道信朝臣」は藤原道信である。藤原為光の子で、左近中将となったが、若くして没した。

 初句「いにしへの」は、昔の、の意である。前歌の「そのかみ」を受けている。
 二句「やまゐの衣」は、山藍で摺った衣、すなわち舞人の衣をいう。前歌の「やまゐ」を受ける。
 三句「なかりせば」は、なかったならば、の意である。「せば」は結句の「まし」と呼応して反実仮想を表す。
 四句「忘らるる身と」は、忘れられる身と、の意である。「るる」は受身の助動詞「る」の連体形である。
 結句「なりやしなまし」の「や」は疑問の係助詞、「まし」は反実仮想の助動詞である。ともに舞った衣の縁があったからこそ忘れられずにすんだと、思い出してくれた相手への感謝を込めている。

やまゐ:山藍。舞人の衣を摺り染める草
作者
藤原道信
出典
新古今和歌集
前の歌
衣手のやまゐの水に影見えし なほそのかみの春ぞ恋しき
次の歌
たちながら着てだに見せよ小忌衣 飽かぬ昔の忘れ形見に