秋の夜の暁方のきりぎりす
人づてならで聞かましものを
- 歌の意味
-
秋の夜の明け方に鳴くこおろぎの声を、人づてではなく、自分の耳で聞けばよかったものを。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑歌下 1800
詞書「秋の夜きりぎりすを聞くといふ題をよめと人々に仰せられて、大殿籠もりにけるあしたに、その歌を御覧じて」
秋の夜を詠む歌である。秋の夜の明け方に鳴くきりぎりすの声を、人づてではなく自分で聞けばよかった、と詠む。詞書によれば、秋の夜にきりぎりすを聞くという題で歌を詠めと人々に命じて寝所に入り、翌朝その歌々を見て詠んだ歌である。臣下の歌の出来ばえをたたえつつ、自ら聞かなかったことを惜しんでいる。
作者の「天暦御歌」は村上天皇の歌である。醍醐天皇の皇子で、その治世は天暦の治とたたえられた。梨壺に和歌所を置き、『後撰和歌集』の撰進を命じた。
初句「秋の夜の」は、題の秋の夜をいう。
二句「暁方の」は、夜明け前のまだ暗い頃の、の意である。
三句「きりぎりす」は、今のこおろぎにあたる虫で、秋の夜に鳴く。
四句「人づてならで」は、人を介してではなく、の意である。臣下の歌を通して虫の声を知ったことをいう。
結句「聞かましものを」の「まし」は反実仮想の助動詞、「ものを」は逆接的な詠嘆である。歌に詠まれたきりぎりすの声の見事さをたたえ、自ら聞かなかったことを惜しんでいる。
きりぎりす:今のこおろぎ
おほとのごもる:おやすみになる
ひとづて:人を介して伝えること
- 作者
-
村上天皇
- 出典
-
新古今和歌集
- 前の歌
-
たちながら着てだに見せよ小忌衣 飽かぬ昔の忘れ形見に
- 次の歌
-
ながめつつ我が思ふことはひぐらしに 軒の雫の絶ゆるよもなし