あはれとて育みたてしいにしへは
世を背けとも思はざりけむ
- 歌の意味
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いとしいと思ってわたしを育ててくれた昔には、世を捨てよとは思いもしなかっただろうに。
- 鑑賞
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巻第十八 雑歌下 1813
詞書「熊野へ参りて大峰へ入らむとて、年頃養ひたてて侍りける乳母のもとにつかはしける」
親しい人との間の情を詠む歌の三首目である。いとしいと思って育ててくれた昔には、自分が世を捨てるとは思いもしなかっただろう、と詠む。詞書によれば、熊野に参って大峰に入ろうとする際、長年育ててくれた乳母に贈った歌で、厳しい修行に入る身を、育ての親の心を思いやって詠んでいる。
作者の「大僧正行尊」は、源基平の子で、園城寺の僧となり、大峰や熊野などで厳しい修行を重ねた。大僧正に至り、天台座主も務めた。
大峰は大和国の大峰山で、熊野から入って峰々を踏破する修験道の修行の地である。
初句「あはれとて」は、いとしいと思って、の意である。
二句「育みたてし」は、大切に育て上げた、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
三句「いにしへは」は、その昔には、の意である。
四句「世を背けとも」は、世を捨てよとも、の意である。「背け」は命令形で、乳母の立場に立った言い方をしている。
結句「思はざりけむ」の「けむ」は過去推量の助動詞である。育ててくれた乳母の願いに背くことを詫びる心がこもる。前歌の母に続き、育ての親を思う歌となっている。
はぐくむ:大切に育てる
めのと:母親に代わって子を育てる女性
- 作者
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行尊
- 出典
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新古今和歌集
- 前の歌
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たらちねのいさめしものをつれづれと ながむるをだに問ふ人もなし
- 次の歌
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位山跡を尋ねてのぼれども 子を思ふ道になほ迷ひぬる