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補陀落の南の岸に堂建てて
今ぞ栄えん北の藤波

歌の意味
補陀落の南の岸に堂を建てて、今こそ栄えるであろう、北の藤波は。
鑑賞
巻第十九 神祇歌 1854

詞書「この歌は興福寺の南円堂造り始め侍りける時、春日の榎本の明神詠み給へりけるとなん」
 神詠を収める一連の三首目である。観音の浄土である補陀落の南の岸に堂を建て、これから北の藤波が栄えるであろうと告げる歌である。左注によれば、興福寺の南円堂を造り始めたとき、春日の榎本明神が詠んだという。堂の建立を観音の浄土になぞらえ、藤原氏の繁栄を予言している。
 この歌には詞書がなく、歌の後に左注が付く。本テキストではこの左注が次歌の番号の下に置かれているが、内容から本歌の左注にあたるため、ここでは本歌の詞書として引く。
 作者名は原文に記されていない。左注により、春日社の摂社である榎本社の神の詠とされる。春日社は藤原氏の氏神であり、興福寺は藤原氏の氏寺である。
 南円堂は興福寺の八角円堂で、藤原北家の藤原冬嗣が建てたと伝えられ、観音像を本尊とする。

 初句「補陀落の」は、観音菩薩が住むとされる南方の海上の山を指す。南円堂の本尊が観音であることに応じる。
 二句「南の岸に」は、補陀落が南の海にあるとされることを受け、南円堂の「南」を重ねる。
 三句「堂建てて」は、南円堂の建立を指す。観音の浄土の岸に堂を建てるという言い方で、地上の堂をそのまま浄土に重ねている。
 四句「今ぞ栄えん」は、今こそ栄えるだろう、の意である。係助詞「ぞ」を推量の助動詞「ん」(む)の連体形で結ぶ係り結びである。本巻の第千八百五十二首の「栄ゆべし」と「栄ゆ」の語を共有し、ともに神が繁栄を予言する。
 結句「北の藤波」は、藤原北家を、藤の花房が波打つさまにたとえた語である。二句の「南」に「北」を対置し、体言止めで結ぶ。

ふだらく:観音菩薩の住むとされる山。南方の海上にあるとされた
ふぢなみ:藤の花房が風に波打つさま。ここでは藤原氏をたとえる
うぢがみ:一族が祖先神や守護神として祀る神
作者
春日榎本明神(左注による)
出典
新古今和歌集
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情けなく折る人つらし我が宿の あるじ忘れぬ梅の立ち枝を
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夜や寒き衣や薄き片削ぎの 行き合ひの間より霜や置くらん