古典和歌stream

睦まじと君はしらなみ瑞垣の
久しき世より斎ひ初めてき

歌の意味
私が親しく思っていることを、あなたは知らないだろうが、瑞垣の久しい昔の世から、あなたを祝い守り始めていたのだ。
鑑賞
巻第十九 神祇歌 1857

詞書「伊勢物語に住吉に行幸の時、大御神現形し給ひてと記せり」
 神詠を収める一連の六首目である。神が親しく思っていることを帝は知らないだろうが、はるか昔から帝を祝い守ってきたのだと告げる歌である。左注によれば、『伊勢物語』に、帝が住吉に行幸したとき、住吉の大御神が姿を現して詠んだと記されている。神が帝の御代をはるか昔から守護してきたことを明かしている。
 この歌には詞書がなく、歌の後に左注が付く。本テキストではこの左注が次歌の番号の下に置かれているが、内容から本歌の左注にあたるため、ここでは本歌の詞書として引く。
 作者名は原文に記されていない。左注により住吉の大御神の詠とされる。
 『伊勢物語』第百十七段では、帝が「我見ても久しくなりぬ住吉の岸の姫松いく世経ぬらん」と詠み、これに応えて大御神が姿を現し、この歌を詠んだとする。帝の歌は『古今和歌集』にもよみ人しらずとして載る。

 初句「睦まじと」は、親しく思っていると、の意である。神が帝に寄せる親しみをいう。
 二句「君はしらなみ」の「しらなみ」は、「知らなみ」と「白波」を掛ける掛詞である。「君」は帝を指し、帝は知らないだろうが、の意に、住吉の浜に寄せる白波の景を重ねる。
 三句「瑞垣の」は、神社の周囲にめぐらした垣で、「久し」にかかる枕詞としても用いられる。
 四句「久しき世より」は、遠い昔の世から、の意である。帝の歌の「久しくなりぬ」を受けている。
 結句「斎ひ初めてき」は、祝い守り始めていたのだ、の意である。過去の助動詞「き」で、神自らの過去の行いを確かに語る。帝の歌が松の齢を問うたのに対し、神は自らが帝を守護してきた歳月の長さで答えている。前歌が住吉の松の齢を問う人に答えたのと同じく、問いに対する神の返答の歌が続く。

しらなみ:「知らなみ」と「白波」を掛ける
みづがき:神社の周囲にめぐらした垣
いはふ:神として祝い守る
げぎやう:神仏が仮に姿を現すこと。現形と書く
作者
住吉明神(左注による)
出典
新古今和歌集
前の歌
いかばかり年は経ねども住の江の 松ぞふたたび生ひかはりぬる
次の歌
人知れず今や今やとちはやぶる 神さぶるまで君をこそ待て