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跡垂れし神にあふひのなかりせば
何に頼みをかけて過ぎまし

歌の意味
この地に跡を垂れた神に逢う日、その葵がなかったならば、私は何に頼みをかけて過ごしたらよかっただろうか。
鑑賞
巻第十九 神祇歌 1892

詞書「御阿礼に参りて、社の司おのおの葵を掛けけるに詠める」
 賀茂社を詠む一連の五首目である。跡を垂れた神に逢う日、すなわち葵がなかったなら、何に頼みをかけて過ごせばよかったろうか、と詠む歌である。詞書によれば、御阿礼の神事に参り、社の神職たちがそれぞれ葵を掛けていたときに詠んだ歌である。神に逢う祭りの日と葵とを重ね、神を頼みとして生きる思いを表している。
 作者の賀茂重保は、賀茂別雷神社の神主で、私撰集『月詣和歌集』を撰んだ。
 御阿礼は、賀茂祭に先立って賀茂別雷神社で神を迎える神事である。賀茂祭では社殿や人々の冠に葵を掛けて飾った。

 初句「跡垂れし」は、この地に姿を現した、の意である。仏や菩薩が仮に神の姿で現れる垂迹をいう。
 二句「神にあふひの」の「あふひ」は、神に「逢ふ日」と、祭りに掛ける「葵」とを掛ける掛詞である。
 三句「なかりせば」は、なかったならば、の意である。「せば」は反実仮想の形で、結句の「まし」と呼応する。
 四句「何に頼みを」は、何に頼みを、の意である。
 結句「かけて過ぎまし」は、かけて過ごしたらよかっただろうか、の意である。「かけて」は葵を「掛けて」と頼みを「かけて」とを重ねる。「せば〜まし」の反実仮想で、葵の日があるからこそ神を頼めるのだという思いを示す。前歌の「朱の玉垣」の赤から、葵の緑へと賀茂の祭りの色が移る。

あふひ:神に「逢ふ日」と、植物の「葵」を掛ける
みあれ:賀茂祭に先立ち賀茂別雷神社で神を迎える神事。御阿礼と書く
あとたる:仏や菩薩が仮に神の姿で現れる
作者
賀茂重保
出典
新古今和歌集
前の歌
君を祈る心の色を人問はば ただすの宮の朱の玉垣
次の歌
大御田のうるおふばかりせきかけて 井堰に落とせ川上の神