古典和歌stream

しるべある時にだにゆけ極楽の
道にまどへる世の中の人

歌の意味
導きのある今のうちだけでも行け。極楽への道に迷っている世の中の人々よ。
鑑賞
巻第二十 釈教歌 1922

詞書「菩提寺の講堂の柱に虫の食ひたりける歌」
 神仏の示現と高僧の歌を集めた巻頭部の一連の七首目である。極楽への道に迷う世の人々に向かって、導きのある今のうちに行けと促す歌である。詞書によれば、菩提寺の講堂の柱に、虫が食った跡として現れた歌である。
 人の手によらず虫食いの跡に現れたという霊異の歌で、仏の教えに出会える機会を逃さず往生を願えと、世の人を強く戒めている。
 作者は原文に記されない。講堂の柱の虫食いに文字が現れたとして伝えられた歌である。

 初句「しるべある」は、導きがある、の意で、講堂で説かれる仏の教えを指す。
 二句「時にだにゆけ」は、副助詞「だに」で、せめてその時だけでもと限り、命令形「ゆけ」で強く促す。二句切れである。
 三句「極楽の」は、阿弥陀仏の浄土である極楽を示し、次の「道」にかかる。
 四句「道にまどへる」の「る」は存続の助動詞「り」の連体形で、今まさに迷っている人々を示す。
 結句「世の中の人」は、呼びかけの体言止めである。巻頭の二首や第千九百十九首に続いて「世の中」の語が用いられ、迷いの世に生きる人々へと呼びかけが向けられる。

しるべ:道案内。導き
まどふ:道に迷う
出典
新古今和歌集
前の歌
法の舟さして行く身ぞもろもろの 神も仏も我をみそなへ
次の歌
寂寞の苔の岩戸のしづけきに 涙の雨の降らぬ日ぞなき