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いろにのみ染めし心のくやしきを
空しと説ける法のうれしさ

歌の意味
色にばかり染まってきた心がくやしいのに、その色を空しいものと説いてくれた仏法のうれしさよ。
鑑賞
巻第二十 釈教歌 1936

詞書「心経の心をよめる」
 経文の句や教えの心を詠む一連の三首目で、この一連の結びの歌である。色にばかり心を染めてきたことを悔いる身に、その色を空しいと説く法のうれしさを詠む歌である。詞書によれば、『般若心経』の趣意を詠んだ歌である。
 恋や華やかなものに心を奪われてきた半生を悔いつつ、それらを空と説く教えに救いを見いだす喜びが表れている。
 作者の「小侍従」は、平安時代末期から鎌倉時代初期の女房歌人で、石清水八幡宮の別当光清の娘である。「待宵の小侍従」の名で知られる。
 『般若心経』は、「色即是空、空即是色」の句で知られる経典で、形あるものはすべて実体のない空であると説く。

 初句「いろにのみ」の「いろ」は、色恋や華やかな色の意と、仏語で形あるものを指す「色」の意を掛ける掛詞である。
 二句「染めし心の」は、その色に心を染めてきた、の意で、「色」「染め」は縁語である。
 三句「くやしきを」は、悔やまれることなのに、の意で、接続助詞「を」が次の喜びへと転じる。
 四句「空しと説ける」は、『般若心経』の「色即是空」を和らげて移したもので、色は実体のない空であると説いた、の意である。
 結句「法のうれしさ」は、体言止めで、救われた喜びを結ぶ。三句の「くやしき」と四句の教えを経て、悔いが喜びへと反転する構成である。

いろ:色恋や華やかな色の意と、仏語で形あるものを指す「色」を掛ける
のり:仏の教え。仏法
作者
小侍従
出典
新古今和歌集
前の歌
奥山にひとり憂き世はさとりにき 常なき色を風にながめて
次の歌
紫の雲路にさそふ琴の音に 憂き世をはらふ峰の松風