たちかへり苦しき海に置く網も
ふかきえにこそ心ひくらめ
- 歌の意味
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再び立ち帰って苦しみの海に下ろす網も、深い入り江、すなわち深い縁のある人々にこそ、心を引かれて引くのだろう。
- 鑑賞
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巻第二十 釈教歌 1940
詞書「引接結縁楽」
極楽の十楽を詠む一連の四首目で、この一連の結びの歌である。極楽から苦しみの海に立ち帰って下ろす救いの網も、深い縁のある人々にこそ心を引かれて引くのだろうと詠む歌である。詞書は、十楽のうちの引接結縁楽を題とする。
往生した者が、この世で縁を結んだ人々を救いに戻るという喜びを、網を引く漁の景に託している。
作者名は原文になく、前歌に続いて寂蓮法師の歌である。寂蓮法師は、俗名を藤原定長といい、藤原俊成の甥で、その養子となった。出家後も歌人として活躍し、『新古今和歌集』の撰者に任じられたが、完成を見ずに没した。
引接結縁楽は、極楽に往生した者が、この世で縁を結んだ人々を導き迎えることのできる楽しみである。本テキストでは詞書を「引摂結縁楽」と記している。
初句「たちかへり」は、極楽から再びこの世へ立ち帰ることをいう。
二句「苦しき海に」は、迷いと苦しみに満ちたこの世を海にたとえた「苦海」の語を和らげたものである。
三句「置く網も」は、衆生を救い上げる網で、仏の救いを漁の網にたとえている。
四句「ふかきえにこそ」の「え」は、深い「江」の意と、深い「縁」の意を掛ける掛詞である。係助詞「こそ」で、深い縁のある者をとりわけ強調する。
結句「心ひくらめ」の「ひく」は、網を「引く」意と、心が「引かれる」意を掛ける掛詞である。「こそ」を受けて已然形「らめ」で結ぶ係り結びである。本巻の第千九百二十五首で源信が、往生の後に知る人も知らぬ人も迎えようと誓ったのと、同じく往生の後の救いを詠む点で呼応する。
え:深い「江」の意と、深い「縁」の意を掛ける
ひく:網を「引く」意と、心が「引かれる」意を掛ける
- 作者
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寂蓮
- 出典
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新古今和歌集
- 前の歌
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春秋に限らぬ花に置く露は おくれ先立つ恨みやはある
- 次の歌
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いづくにもわが法ならぬ法やあると 空吹く風に問へど答へぬ