古典和歌stream

昔見し月の光をしるべにて
今宵や君が西へ行くらん

歌の意味
かつて共に見た月の光を道しるべにして、今宵、あなたは西方浄土へ行くのだろうか。
鑑賞
巻第二十 釈教歌 1977

詞書「人の身まかりにけるのち、結縁経供養しけるに、即往安楽世界の心をよめる」
 西方を思う贈答と月の歌の一連の五首目である。かつて共に見た月の光を道しるべとして、今宵あなたは西方浄土へ行くのだろうかと、亡き人に呼びかける歌である。詞書によれば、ある人が亡くなった後に結縁経の供養を営んだ際、「即ち安楽世界に往く」という句の趣意を詠んだ歌である。
 生前に共に眺めた月の光に導かれて、亡き人が極楽に往生することを願い、また信じる心が表れている。
 作者の「瞻西上人」は、平安時代後期の天台宗の僧で、京都東山に雲居寺を開いた。
 結縁経供養は、故人の冥福を祈り、人々が仏縁を結ぶために経を書写して供養する法会である。「即往安楽世界」は、『法華経』薬王菩薩本事品に見える句で、この経を聞いて説かれるとおりに修行する者は、命終わって阿弥陀仏の安楽世界に往生すると説かれる。

 初句「昔見し」は、かつて見た、の意で、過去の「き」の連体形が用いられる。生前に亡き人と共に見た日々を思わせる。
 二句「月の光を」は、西へ渡る月の光で、西方浄土へ導く光である。
 三句「しるべにて」は、道しるべとして、の意である。本巻の第千九百七十五首の「西へ行くしるべと思ふ月影」と同じ趣向を用い、ここでは亡き人の往生の導きとしている。
 四句「今宵や君が」は、係助詞「や」による疑問で、供養の今夜を示し、亡き人に呼びかける。
 結句「西へ行くらん」は、「や」を受けて連体形「らん」で結ぶ係り結びである。経文の「即ち安楽世界に往く」を、西へ行くと和らげて移している。

しるべ:道案内。導き
あんらくせかい:阿弥陀仏の極楽浄土
作者
瞻西
出典
新古今和歌集
前の歌
立ち入らで雲間を分けし月影は 待たぬけしきや空に見えけん
次の歌
闇晴れて心の空に澄む月は 西の山べや近くなるらん