今日別れ明日はあふみと思へども
夜や更けぬらむ袖の露けき
- 歌の意味
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今日別れても、明日には「逢ふ身」という名の近江にあなたはいるのだと思うけれど、夜が更けたのだろうか、袖が露でしっとりと濡れていることだ。
- 鑑賞
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巻第八 離別歌 369
詞書「貞辰親王の家にて、藤原清生が近江介にまかりける時に、馬のはなむけしける夜詠める」
今日別れても明日は「逢ふ身」という名の近江に着くのだから嘆くには及ばないと思いながら、夜が更けたのか袖が露に濡れる、と別れの涙を夜露に託して詠んだ歌である。清和天皇の皇子である貞辰親王の邸で、近江介として任国へ下る藤原清生を送る宴が開かれ、その夜に詠まれたものである。近江は都に近く、地名に「逢ふ身」を響かせて慰めとしながら、なお涙を抑えられない心が下の句に表れている。
作者の「きのとしさた」は紀利貞である。甲斐守紀貞守の子で、官は従五位下阿波介に至り、元慶5年(881)に没した。
初句「今日別れ」は、別れの時を「今日」と区切って示し、二句の「明日」と対をなす。巻頭の第三百六十五首「立ち別れ」以来、本巻では別れの語が繰り返され、この歌もその流れに連なる。
二句「明日はあふみと」は、地名の「近江」に「逢ふ身」を掛ける掛詞である。今日別れても明日は逢う身となる、という言葉の上の理屈に慰めを見いだそうとしている。
三句「思へども」は、逆接の接続助詞「ども」で上の理屈を受け止め、下の句の実感へと転じる。
四句「夜や更けぬらむ」は、係助詞「や」と現在推量の助動詞「らむ」の係り結びで、夜が更けたのだろうかと推し量る。ここで句切れとなる四句切れである。
結句「袖の露けき」は、形容詞「露けし」の連体形で結ぶ連体止めで、推量の根拠を倒置して示す。袖を濡らすのは夜露であると装いながら、実は別れの涙であることを暗示している。
むまのはなむけ:旅立つ人を送る宴、または餞別
まかる:都から地方へ下る、赴任する
すけ:国司の次官
あふみ:地名の近江と「逢ふ身」を掛ける
- 作者
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紀利貞
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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たらちねの親のまもりとあひそふる 心許りはせきなとどめそ
- 次の歌
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かへる山ありとは聞けど春霞 たち別れなば恋しかるべし