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かへる山ありとは聞けど春霞
たち別れなば恋しかるべし

歌の意味
越の国には「帰る」という名のかへる山があるとは聞いているけれど、春霞が立つように、あなたが旅立って別れてしまったなら、きっと恋しく思うだろう。
鑑賞
巻第八 離別歌 370

詞書「越へまかりける人に詠みて遣はしける」
 越の国には帰りを約束するような名のかへる山があると聞くが、それでも別れてしまえば恋しいに違いない、と越へ下る人に贈った歌である。地名に託した慰めを受け入れつつ、なお募る思いを率直に述べている。
 作者の「きのとしさた」は紀利貞である。甲斐守紀貞守の子で、官は従五位下阿波介に至った。

 初句「かへる山」は、越前国の歌枕である鹿蒜山(かへるやま)に「帰る」を掛ける掛詞である。本巻の第三百八十二首も「かへる山」で始まり、同じ地名を用いながら、一方は帰る望みを、他方は来てもとどまらない嘆きを詠む対応をなす。
 二句「ありとは聞けど」は、逆接の接続助詞「ど」で、帰る山があることを認めつつ、それを打ち消していく。
 三句「春霞」は、「たつ」を導く語で、季節を春と示す。
 四句「たち別れなば」は、霞が「立つ」と旅に「立つ」を掛ける掛詞である。「なば」は完了の助動詞「ぬ」の未然形に接続助詞「ば」がついた仮定の形である。巻頭の第三百六十五首の初句「立ち別れ」と同じ語を共有する。
 結句「恋しかるべし」は、推量の助動詞「べし」で、別れた後の恋しさを確信をもって見通している。

かへるやま:越前国の山の名である鹿蒜山と「帰る」を掛ける
たつ:霞が立つ意と、旅に立つ意を掛ける
こし:北陸地方の古称
作者
紀利貞
出典
古今和歌集
前の歌
今日別れ明日はあふみと思へども 夜や更けぬらむ袖の露けき
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惜しむから恋しきものを白雲の たちなむ後はなに心地せむ