思へども身をし分けねば目に見えぬ
心を君にたぐへてぞやる
- 歌の意味
-
あなたを思っていても、この身を二つに分けることはできないので、目に見えない心をあなたに添わせて送り出すのだ。
- 鑑賞
-
巻第八 離別歌 373
詞書「東の方へまかりける人に詠みて遣はしける」
東国へ下る人に、身は分けられないから、せめて目に見えない心を旅の伴として添えてやろうと贈った歌である。身と心とを対比し、同行できない無念を心の同行で補おうとする発想が明快である。
作者の「いかこのあつゆき」は伊香子淳行である。伝は詳らかでない。
初句「思へども」は、逆接の「ども」で、思いの深さと、それを行動に移せない現実とをつなぐ。第三百六十九首の三句「思へども」と同じ句を共有する。
二句「身をし分けねば」は、強意の副助詞「し」で「身」を強め、打消の「ね」に「ば」がついて、分けられないのでと理由を示す。
三句「目に見えぬ」は、二句の「身」と対をなし、見えない「心」を導く。
四句「心を君に」は、身に代えて心を差し出す対比の中心である。本巻の第三百七十八首「雲居にも通ふ心の後れねば」も、心が旅人に遅れずについて行くという同じ発想をとる。
結句「たぐへてぞやる」は、「たぐふ」が添わせる意で、係助詞「ぞ」と連体形「やる」の係り結びをなし、心を送り出す意志を強く示す。
たぐふ:連れ添わせる、一緒に行かせる
あづま:東国、都より東の地方
- 作者
-
伊香子淳行
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
別れては程を隔つと思へばや かつ見ながらにかねて恋しき
- 次の歌
-
あふさかの関しまさしきものならば 飽かず別るる君をとどめよ