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唐衣たつ日は聞かじ朝露の
おきてし行けば消ぬべきものを

歌の意味
唐衣を裁つというその「たつ」日、あなたが旅立つ日のことなど聞くまい。朝露が置くように、あなたが私を置いて起きて出て行ってしまえば、私は露のように消えてしまうにちがいないのに。
鑑賞
巻第八 離別歌 375

詞書「題しらず」、左注「この歌は、ある人、官を賜りて新しき妻につきて年経て住みける人を捨てて、ただ明日なむ立つとばかり言へりける時に、ともかうも言はで詠みて遣はしける」
 旅立ちの日など聞きたくない、あなたが私を置いて行ってしまえば、朝露のように消えてしまうだろうに、と去っていく男への悲しみを詠んだ歌である。左注によれば、官職を得て新しい妻とともに任国へ下ることになった男が、長年連れ添った女を捨て、ただ明日発つとだけ告げた時に、女が何も言わずに詠んで送ったものである。恨み言を並べず、衣と露の縁語で悲しみを静かに表している。
 作者は「よみ人しらず」とされ、名は伝わらない。

 初句「唐衣」は、衣を「裁つ」ことから「たつ」を導く枕詞で、衣は夫婦の暮らしを思わせる。
 二句「たつ日は聞かじ」は、衣を「裁つ」と旅に「発つ」を掛ける掛詞である。打消意志の「じ」で、聞くまいと拒む心を示し、ここで句切れとなる二句切れである。
 三句「朝露の」は、「おく」を導く語で、はかなく消えるものの象徴として結句の「消ぬ」と縁語をなす。
 四句「おきてし行けば」は、露が「置く」と、朝に「起く」、そして相手を「置く」の意を重ねた掛詞である。間に強意の「し」がはさまる。
 結句「消ぬべきものを」は、「消ぬ」が露の消える意に自身の命の絶える意を重ね、逆接の「ものを」で言いさして余韻を残す。

からころも:中国風の美しい衣。「裁つ」「着る」などにかかる
たつ:衣を裁つ意と、旅に発つ意を掛ける
おく:露が置く意と、起きる意、相手を置き去りにする意を重ねる
く:消える
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
あふさかの関しまさしきものならば 飽かず別るる君をとどめよ
次の歌
朝なけに見べき君とし頼まねば 思ひ立ちぬる草枕なり