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もろともに鳴きてとどめよきりぎりす
秋の別れは惜しくやはあらぬ

歌の意味
私たちと一緒に鳴いて、旅立つ人を引きとめておくれ、きりぎりすよ。秋との別れは、お前にとっても惜しくないことがあろうか。
鑑賞
巻第八 離別歌 385

詞書「藤原後蔭が唐物の使に長月のつごもりがたにまかりけるに、上の男ども酒たうびけるついでに詠める」
 藤原後蔭が唐物の使として九月の末に旅立つ際、殿上人たちが酒を賜った送別の席で詠まれた歌である。行く秋を惜しんで鳴くきりぎりすに、我々と共に鳴いて人を引きとめよと呼びかけ、秋の終わりと人との別れとを重ねている。
 作者の「ふちはらのかねもち」は藤原兼茂である。右近衛中将藤原利基の子で、藤原兼輔の兄にあたり、参議に至った。
 なお本文には「秋の」にあたる語が見えず、「蛬のわかれは」とあって、読み仮名の行の「きりきりす-あきのわかれは」と一致しない。本文のままでは四句が成り立たないため、ここでは読み仮名の行に従って「秋の」を補う。

 初句「もろともに」は、一緒にの意で、宴に集う人々と共に、ときりぎりすを誘う。
 二句「鳴きてとどめよ」は、命令形「とどめよ」で呼びかけ、ここで句切れとなる。前歌がほととぎすの声を別れを惜しむ声と聞くのに対し、この歌はきりぎりすに共に鳴けと求め、夏の鳥と秋の虫の対応をなす。
 三句「きりぎりす」は、呼びかけの対象で、今のこおろぎにあたる秋の虫である。
 四句「秋の別れは」は、九月の末という時節から、秋との別れと人との別れの両方を指す。
 結句「惜しくやはあらぬ」は、反語の「やは」で、惜しくないことがあろうか、惜しいはずだと強く訴える。

からもののつかひ:唐からの舶来品を検分し買い上げるために大宰府へ遣わされた使
つごもり:月の末
うへのをのこ:殿上人
たうぶ:いただく、賜る
作者
藤原兼茂
出典
古今和歌集
前の歌
音羽山木高く鳴きてほととぎす 君が別れを惜しむべらなり
次の歌
秋霧のともにたち出でて別れなば はれぬ思ひに恋ひや渡らむ