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人やりの道ならなくにおほかたは
行き憂しと言ひていざ帰りなむ

歌の意味
人に命じられて行く旅ではないのだから、いっそのこと、行くのはつらいと言って、さあ帰ってしまおう。
鑑賞
巻第八 離別歌 388

詞書「山崎より神奈備の森まで送りに人々まかりて、帰りがてにして別れ惜しみけるに詠める」
 山崎から神奈備の森まで見送りに来た人々が、なかなか帰れずに別れを惜しんでいた時に、旅立つ源実自身が詠んだ歌である。自分の意志で出る旅なのだから、行くのはつらいと言って皆と一緒に帰ってしまおうかと、見送りの人々の情に応える形で名残惜しさを表している。
 作者の「源さね」は源実である。左近衛権少将や蔵人を務め、昌泰3年(900)に没した。

 初句「人やりの」は、他人に命じられてする意で、旅が自分の意志によるものであることを裏から示す。前歌から続く、源実を見送る一連の二首目である。
 二句「道ならなくに」は、「なくに」が〜ないのにの意で、強いられた旅ではないことを確かめる。
 三句「おほかたは」は、いっそのことの意で、思い切った決断を導く。
 四句「行き憂しと言ひて」は、「憂し」がつらいの意で、旅を続けることへの気の重さを言葉にする。字余りの句である。
 結句「いざ帰りなむ」は、誘いの「いざ」と強意の「な」、意志の「む」で、さあ帰ってしまおうと呼びかけて結ぶ。

ひとやり:人に命じられてすること
かみなびのもり:山城の歌枕で、神の宿る森
作者
源実
出典
古今和歌集
前の歌
命だに心にかなふものならば 何か別れの悲しからまし
次の歌
慕はれて来にし心の身にしあれば 帰るさまには道も知られず