強ひて行く人をとどめむ桜花
いづれを道と惑ふまで散れ
- 歌の意味
-
無理にも行ってしまおうとする人を引きとめよう。桜の花よ、どれが道なのか迷うほどに散ってくれ。
- 鑑賞
-
巻第八 離別歌 403
詞書「題しらず」
無理に旅立とうとする人を引きとめるため、桜の花に、道が分からなくなるほど散れと命じた歌である。散り敷く花で道を覆い隠すという華やかな想像で、別れを惜しむ心を表している。
作者は「よみ人しらず」とされ、名は伝わらない。
初句「強ひて行く」は、無理にも行くの意で、引きとめを振り切ろうとする相手の態度を示す。
二句「人をとどめむ」は、意志の「む」で、引きとめようと決意し、ここで句切れとなる二句切れである。前歌の結句「君をとどめむ」と同じ語を共有し、引きとめの一連をなす。
三句「桜花」は、呼びかけの対象で、人を引きとめる手立てとして選ばれる。本巻の第三百九十四首が、散り乱れる桜にまぎれて人が立ちとどまることを願った趣向と対応する。
四句「いづれを道と」は、どれを道としてよいかの意で、花に覆われた道の見分けがたさをいう。
結句「惑ふまで散れ」は、命令形「散れ」で、迷うほどに散れと桜に強く命じて結ぶ。
しふ:無理にする、強いる
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
かきくらしことは降らなむ春雨に ぬれぎぬ着せて君をとどめむ
- 次の歌
-
結ぶ手の雫に濁る山の井の 飽かでも人に別れぬるかな