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山隠す春の霞ぞ恨めしき
いづれ都の境なるらむ

歌の意味
山を隠してしまう春の霞が恨めしい。いったいどのあたりが都との境なのだろうか。
鑑賞
巻第九 羈旅歌 413

詞書「東の方より京へまうで来とて道にてよめる」
 東国から都へ帰る旅の途中、春霞に山々が覆われ、都との境がどこなのか見定められないもどかしさを詠んだ歌である。早く都に着きたいと願う心が、景色を隠す霞への恨みとして表されている。
 詞書から、東国から都へ上る道中の作であるとわかる。国境の山を越えれば都の地であるという期待が、見えない境への問いかけとなっている。
 作者の「おと」は乙である。女性とされるが、伝は未詳である。

 初句「山隠す」は、霞が山を覆い隠すさまを述べる。
 二句「春の霞ぞ」の「ぞ」は係助詞で、三句の連体形「恨めしき」と係り結びをなす。
 三句「恨めしき」で句切れとなる。旅の景物である霞を恨む形で、帰りを急ぐ心の強さを表している。前歌の第四百十二首が北へ帰る雁を詠んだのに続き、本歌も都へ帰る旅の歌であり、帰路の歌が並べられている。
 四句「いづれ都の」の「いづれ」は疑問の語で、どこが都なのかと問いかける。
 結句「境なるらむ」の「らむ」は現在推量の助動詞で、見えない境を思いやる気持ちを表している。

まうでく:都へ参上する、やって来る
作者
乙
出典
古今和歌集
前の歌
北へ行く雁ぞ鳴くなる連れて来し 数は足らでぞ帰るべらなる
次の歌
消え果つる時しなければ越路なる 白山の名は雪にぞありける