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心から花のしづくにそほちつつ
うくひずとのみ鳥の鳴くらむ

歌の意味
自ら好んで花の雫に濡れていながら、どうして「つらい、乾かない」とばかり鳥は鳴いているのだろう。
鑑賞
巻第十 物名 422

詞書「鶯」
 自ら好んで花の雫に濡れていながら、なぜ鳥は「憂く干ず(つらい、乾かない)」とばかり鳴くのだろうと問いかける歌である。鶯の鳴き声を「うくひず」と聞きなし、その中に題の「うぐひす」を詠み込んでいる。濡れるのは花を慕う鳥自身の心からなのに、とやんわりとがめる機知が一首の眼目である。物名の巻の巻頭に置かれ、巻末の本巻の第四百六十八首も花の中に分け入る心を詠んでおり、花に寄せる思いで巻の初めと終わりが呼応する。
 作者の「藤原としゆきの朝臣」は藤原敏行である。藤原富士麻呂の子で、右兵衛督に至った。三十六歌仙の一人で、能書家としても知られる。

 初句「心から」は、自分の心から、自ら進んで、の意で、濡れるのは鳥自身の望みによることを先に示している。
 二句「花のしづくに」は花に置いた露や雨の雫をいい、鶯が花の枝に宿るさまを思わせる。
 三句「そほちつつ」は「そほつ(濡れる)」に反復継続の接続助詞「つつ」が付いた形で、濡れながら、の意である。
 四句「うくひずとのみ」は「憂く干ず」で、つらい、乾かない、の意である。ここに題の「うぐひす」が隠されており、鶯の声の聞きなしとしての面白さもある。
 結句「鳥の鳴くらむ」の「らむ」は現在推量の助動詞で、なぜ鳴いているのだろうと理由を推し量る。初句の「心から」と響き合い、自ら招いたことをからかう結びとなっている。

うくひず:「憂く干ず」(つらくて乾かない)の意と、鳥の名「うぐひす」を掛ける
そほつ:濡れる、しっとりと濡れそぼる
作者
藤原敏行
出典
古今和歌集
前の歌
手向けには綴りの袖も切るべきに 紅葉に飽ける神や返さむ
次の歌
来べきほどときすぎぬれや待ちわびて 鳴くなる声の人をとよむる