かづけども波のなかにはさぐられて
風吹くごとに浮き沈む玉
- 歌の意味
-
水に潜って取ろうとしても、波の中では手探りされるばかりで、風が吹くたびに浮いたり沈んだりする玉であることよ。
- 鑑賞
-
巻第十 物名 427
詞書「かには桜」
水に潜って取ろうとしても、波の中では手探りされるばかりで、風が吹くたびに浮き沈みする玉であることよ、と詠む歌である。二句から三句にかけての「なかにはさぐられて」に題の「かにはさくら(樺桜)」を詠み込んでいる。波間に浮き沈みする泡を、つかむことのできない玉に見立てたもので、本巻の第四百二十四首の、拾えばはかなく消える波の玉と通い合う趣向である。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を執筆した。『土佐日記』の作者としても知られる。
初句「かづけども」は「かづく(水に潜る)」に逆接の「ども」が付いた形で、潜っても、の意である。
二句「波のなかには」は、波の中では、の意で、「なかには」の「かには」から題の語が始まる。
三句「さぐられて」は、手探りされて、の意である。二句と続けた「かにはさくら」に題の「かには桜」が隠されており、潜っても手探りするばかりで玉をつかめないさまを表す。
四句「風吹くごとに」は、風が吹くたびに、の意で、波が立つことを示す。
結句「浮き沈む玉」は体言止めで、波間に浮き沈みする泡の玉を印象深く結ぶ。
かづく:水の中に潜る
さぐる:手探りで探し求める
かにはさくら:「なかにはさぐられて」にまたがって詠み込まれた題で、樺桜(桜の一種)をいう
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
あなうめに常なるべくも見えぬかな 恋しかるべき香は匂ひつつ
- 次の歌
-
今いくか春しなければうぐひすも ものはながめて思ふべらなり