かの方にいつからさきに渡りけむ
波路は跡も残らざりけり
- 歌の意味
-
あの向こう岸に、いつから先に渡ってしまったのだろう。舟の通った波路には、跡も残っていないことだ。
- 鑑賞
-
巻第十 物名 458
詞書「唐崎」
あの向こう岸に、いつから先に渡ってしまったのだろう、波路には跡も残っていないことだ、と詠む歌である。二句の「いつからさきに」に地名の「からさき(唐崎)」を詠み込んでいる。唐崎は近江国の琵琶湖西岸の地で、湖を渡っていった舟の跡が波に消えていくさまを詠む。次歌の第四百五十九首も同じ題で、二首が並ぶ。
作者の「あほのつねみ」は阿保経覧である。平安時代前期の官人とみられるが、経歴の詳細は伝わらない。
初句「かの方に」は、あちらの方へ、向こう岸へ、の意である。
二句「いつからさきに」は、いつから先に、の意で、「からさき」に地名の「唐崎」が隠されている。
三句「渡りけむ」は過去推量の「けむ」で、渡ってしまったのだろうか、と推し量る。ここで句切れとなる。
四句「波路は跡も」は、舟の通った波の道には跡も、の意である。
結句「残らざりけり」は、残っていないことだ、と気づきの詠嘆で結ぶ。
なみぢ:舟の通う水路、波の上の道
からさき:「いつからさきに」の中に詠み込まれた地名で、近江国の唐崎をいう
- 作者
-
阿保経覧
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
楫にあたる波のしづくを春なれば いかがさき散る花と見ざらむ
- 次の歌
-
波の花沖からさきて散り来めり 水の春とは風やなるらむ