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白波の跡なき方に行く舟も
風ぞたよりのしるべなりける

歌の意味
白波の立つ、跡も残らない海の方へ漕いでいく舟でさえ、風が頼りの道案内となるのだった。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 472

詞書「題しらず」
 航跡も残らない大海原を行く舟でさえ、風を頼りに進んでいけるのだと詠む歌である。恋の歌として置かれていることから、手がかりのない相手のもとへ思いを届けるにも、何かのつて(便り)があればよいという願いを、舟と風に託していると読める。直接恋の語を用いず、比喩だけで恋の道の頼りなさと希望を示している。
 作者の藤原勝臣は藤原北家の出身で、越後介藤原発生の子である。阿波権掾を務めた。生没年は伝わらないが、貞観年間から寛平年間ごろに活動したとみられ、古今和歌集に三首が入集している。

 初句「白波の」は、白く立つ波のことで、広い海原の景を示す。
 二句「跡なき方に」は、舟の通った跡が残らない方角、すなわち道しるべのない海上をいう。手がかりのない恋の相手を暗示している。
 三句「行く舟も」の「も」は、そのような舟でさえの意を表す。
 四句「風ぞたよりの」の「たより」は、頼りとなるもの、手段の意で、音信の意の「便り」も思わせる。「ぞ」は係助詞で結句の「ける」と係り結びをなす。前歌の第四百七十一首が水の流れ、本歌が風と、自然の力に恋を託す趣向が続いている。
 結句「しるべなりける」の「しるべ」は道案内の意である。「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形で、四句の「ぞ」を受ける。本巻の第四百七十七首で「思ひのみこそしるべなりけれ」と、同じ「しるべ」の語が恋の道案内として用いられている。

しるべ:道案内、手引き
たより:頼りとなるもの、手段
作者
藤原勝臣
出典
古今和歌集
前の歌
吉野川岩波高く行く水の はやくぞ人を思ひそめてし
次の歌
音羽山音に聞きつつ逢坂の 関のこなたに年を経るかな