古典和歌stream

音羽山音に聞きつつ逢坂の
関のこなたに年を経るかな

歌の意味
音羽山の名のように、あの人の噂ばかりを聞きながら、逢うという名の逢坂の関のこちら側で、逢えないまま年月を過ごしていることだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 473

詞書「題しらず」
 噂に聞くばかりで逢うことのできない恋を、音羽山と逢坂の関という近江と山城の境の歌枕に託した歌である。「音」を持つ山の名と「逢ふ」を名に持つ関を組み合わせ、評判は届くのに関を越えられずにいる自分の境遇を表している。地名の響きを巧みに生かした、歌枕の歌の好例である。
 作者の在原元方は在原業平の孫で、筑前守在原棟梁の子である。のち藤原国経の養子となった。古今和歌集巻頭の「年の内に春は来にけり」の歌の作者として知られる。

 初句「音羽山」は山城国と近江国の境にある山で、逢坂の関の近くにある。山の名の「音」が、二句の「音に聞く」を同じ音で導いている。
 二句「音に聞きつつ」は、噂に聞きながらの意である。「つつ」は継続を表す。本巻の第四百八十二首も「音に聞きつつ」と同じ句を用い、見ぬ恋の苦しさを共有している。
 三句「逢坂の」は近江国の歌枕で、地名に「逢ふ」の意が響く。本巻の第五百三十六首、第五百三十七首も「逢坂の」で始まり、巻の終盤で再び逢坂が詠まれている。
 四句「関のこなたに」は、関のこちら側にの意で、恋人との間を隔てる関を越えられずにいることを表す。
 結句「年を経るかな」は、年月を過ごしていることだの意で、「かな」は詠嘆の終助詞である。

おとはやま:山城国と近江国の境の山。「音」を響かせる歌枕
あふさか:近江国の逢坂の関。「逢ふ」を響かせる歌枕
こなた:こちら側
ふ:時が過ぎる、年月を過ごす
作者
在原元方
出典
古今和歌集
前の歌
白波の跡なき方に行く舟も 風ぞたよりのしるべなりける
次の歌
立ち帰りあはれとぞ思ふよそにても 人に心をおきつ白波