見ずもあらず見もせぬ人の恋しくは
あやなく今日やながめ暮らさむ
- 歌の意味
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見なかったわけでもなく、かといってはっきり見たわけでもない人が恋しいので、わけもなく今日はぼんやりと物思いにふけって過ごすのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 476
詞書「右近の馬場のひをりの日、向かひに立てたりける車の下簾より女の顔のほのかに見えければ、詠んでつかはしける」
右近衛府の馬場で行われた騎射の日に、向かいの牛車の簾越しにほのかに見えた女性に贈った歌である。見たとも見ないともいえない、わずかに垣間見ただけの相手に心を奪われた戸惑いを、「見ず」と「見もせぬ」を重ねた言い回しで表している。この贈答は『伊勢物語』第九十九段にも収められ、垣間見から始まる恋の典型として知られる。
作者の在原業平は平城天皇の皇子阿保親王の子で、右近衛権中将を務め、在五中将と呼ばれた。六歌仙、三十六歌仙の一人で、『伊勢物語』の主人公に擬される。原文の「朝臣」は五位以上の貴族につける敬称である。
初句「見ずもあらず」は、見なかったわけでもないの意である。本歌と次歌の第四百七十七首は贈答をなし、次歌は本歌の「あやなく」の語を受けて返している。
二句「見もせぬ人の」は、はっきり見たわけでもない人がの意で、初句と打消しを重ねて、垣間見のあいまいさを表している。
三句「恋しくは」は、恋しいのでの意である。
四句「あやなく今日や」の「あやなく」は、わけもなく、筋が通らずにの意である。「や」は係助詞で疑問を表し、結句の「む」と係り結びをなす。
結句「ながめ暮らさむ」は、物思いにふけって一日を過ごすのだろうかの意である。「ながむ」は、ぼんやりと物思いにふけることをいう。
ひをり:騎射の行事。五月に近衛府の馬場で行われた騎射の手結
したすだれ:牛車の簾の内側に垂らした布
ながむ:物思いにふけってぼんやりと眺める
- 作者
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在原業平
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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世の中はかくこそありけれ吹く風の 目に見ぬ人も恋しかりけり
- 次の歌
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知る知らぬなにかあやなくわきて言はむ おもひのみこそしるべなりけれ