吉野川岩切りとほし行く水の
音には立てじ恋ひは死ぬとも
- 歌の意味
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吉野川の岩を切り通して流れていく水は激しく音を立てるが、私は声に出して恋を人に知られたりはしない。たとえ恋に死ぬことになっても。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 492
詞書「題しらず」
岩を切り裂くように流れる吉野川の激流を引き合いに出し、その水音とは反対に、恋を決して口外しないと誓う歌である。激しい水音と、死んでも声に出さないという固い沈黙とが鮮やかな対比をなしている。忍ぶ恋の決意を強く打ち出した一首である。
初句「吉野川」は大和国の歌枕で、急流で知られる。本巻の第四百七十一首も同じ初句で始まり、三句「行く水の」まで共有している。あちらは水の速さを恋の始まりの早さに重ね、本歌は水の音を反転させて、声に出さない恋を詠んでいる。
二句「岩切りとほし」は、岩を切り裂いて通しての意で、激流の勢いを表している。
三句「行く水の」は、流れていく水のの意で、初句からここまでが四句の「音」を導く序詞である。
四句「音には立てじ」は、声に出して人に知られるようなことはするまいの意である。「じ」は打消しの意志を表す助動詞で、四句で切れる倒置の構成である。
結句「恋ひは死ぬとも」は、たとえ恋のために死んでもの意である。本巻の第四百九十四首も同じ結句で結ばれ、忍ぶ恋の覚悟を共有している。
きりとほす:切り開いて通す
おとにたつ:声に出す。評判になる
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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葦引の山下水の木隠れて たぎつ心をせきぞかねつる
- 次の歌
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たぎつ瀬の中にも淀はありてふを などわが恋の淵瀬ともなき