たぎつ瀬の中にも淀はありてふを
などわが恋の淵瀬ともなき
- 歌の意味
-
激しく流れる早瀬の中にさえ、流れのよどむ所はあるというのに、どうして私の恋には淵も瀬もなく、ただ激しく流れるばかりなのか。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 493
詞書「題しらず」
激流の中にも流れのゆるむよどみがあるのに、自分の恋には休まるところがないと嘆く歌である。川の早瀬と淀、淵と瀬という対比を用い、緩急のない、ただ激しく流れ続ける恋心の苦しさを表している。水の流れに恋を託す一連の中で、恋の絶え間なさに焦点を当てた一首である。
初句「たぎつ瀬の」は、水が激しく流れる早瀬のことである。前々歌の第四百九十一首の「たぎつ心」と語を共有している。
二句「中にも淀は」の「淀」は、水の流れがよどむ所、ゆるやかになる所をいう。
三句「ありてふを」の「てふ」は「といふ」がつまった形で、あるというのにの意である。
四句「などわが恋の」の「など」は、どうしての意の疑問の副詞で、結句の連体形「なき」と呼応している。
結句「淵瀬ともなき」は、淵とも瀬とも区別がないの意で、流れの深く静かな所と浅く速い所の区別もなく、ただ激しく流れる恋を表している。
たぎつせ:水が激しく流れる早瀬
よど:水の流れがよどむ所
ふちせ:淵と瀬。深く淀んだ所と浅く流れの速い所
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
吉野川岩切りとほし行く水の 音には立てじ恋ひは死ぬとも
- 次の歌
-
山高み下行く水の下にのみ 流れて恋ひむ恋ひは死ぬとも