山高み下行く水の下にのみ
流れて恋ひむ恋ひは死ぬとも
- 歌の意味
-
山が高いので木々の下を流れていく水のように、ひそかに心の中だけで、ずっと恋い続けよう。たとえ恋のために死ぬことになっても。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 494
詞書「題しらず」
高い山の木陰を人目に触れずに流れる水のように、心の奥でひそかに恋い続けようと決意する歌である。「下」の語を重ねて、表に出ない恋の深さを強調している。結句で死をも覚悟する忍ぶ恋の決意を示し、水に恋を託す一連を締めくくっている。
初句「山高み」は、山が高いのでの意で、「み」は原因や理由を表す接尾語である。
二句「下行く水の」は、木々の下や物陰を流れていく水のことで、本巻の第四百九十一首の「山下水」と同じく、人知れぬ恋の比喩である。
三句「下にのみ」は、心の内にだけの意で、二句の「下」を繰り返し、初句からここまでが序の働きをしている。
四句「流れて恋ひむ」の「流れて」は、水が流れての意と、時を経て長く続けての意を重ねている。「む」は意志の助動詞で、四句で切れる。
結句「恋ひは死ぬとも」は、たとえ恋のために死んでもの意で、本巻の第四百九十二首と同じ結句である。水の音を立てない決意と、下を流れ続ける決意とが呼応している。
したゆくみづ:物陰を人知れず流れる水
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
たぎつ瀬の中にも淀はありてふを などわが恋の淵瀬ともなき
- 次の歌
-
思ひ出づるときはの山の岩つつじ いはねばこそあれ恋しきものを