夏なれば宿にふすぶる蚊遣火の
いつまでわが身下燃えをせむ
- 歌の意味
-
夏なので家でくすぶらせている蚊遣火のように、いつまで私は表に出さず胸の内で恋の火をくすぶらせ続けるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 500
詞書「題しらず」
夏の夜に家でくすぶらせる蚊遣火を序とし、表に炎を上げずにくすぶり続ける忍ぶ恋を詠んだ歌である。煙ばかり立てて燃え上がらない蚊遣火の様子に、思いを打ち明けられずに胸の内で燃え続ける苦しさを重ねている。夏の生活の一場面を巧みに恋の比喩に用いた一首である。
なお本文の結句は「したもえをせむ」とあり、読み仮名の行の「したもえにせむ」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。
初句「夏なれば」は、夏なのでの意である。
二句「宿にふすぶる」の「ふすぶる」は、煙を立ててくすぶらせるの意である。
三句「蚊遣火の」は、蚊を追い払うために草などをいぶして煙を立てる火のことで、初句からここまでが結句の「下燃え」を導く序詞である。
四句「いつまでわが身」は、いつまで私はの意で、結句の「む」と呼応して、終わりの見えない嘆きを表している。
結句「下燃えをせむ」の「下燃え」は、表に炎を出さず下でくすぶって燃えることで、胸の内で恋い焦がれる意を重ねている。本巻の第五百三十首の「下に燃ゆる」も同じく、人知れず燃える恋を詠んでいる。
ふすぶ:煙を立ててくすぶらせる
かやりび:蚊を追い払うために草などをいぶす火
したもえ:表に炎を出さずにくすぶって燃えること。転じて、心の内でひそかに恋い焦がれること
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
あしひきの山郭公わがごとや 君に恋ひつつ寝ねがてにする
- 次の歌
-
恋せじと御手洗川にせし禊 神は受けずぞなりにけらしも