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夏虫の身をいたづらになすことも
ひとつおもひによりてなりけり

歌の意味
夏の虫が火に飛び込んで身をむなしく滅ぼしてしまうのも、私と同じ一つの思いの火によってなのだった。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 544

詞書「題しらず」
 夏の夜に灯火に飛び込んで命を落とす虫の姿に、恋の思いに身を滅ぼす自分を重ねた歌である。「思ひ」に「火」を掛け、虫を焼く灯火と、自分を焦がす恋の火とが同じものであると気づく発想で、恋に身を捧げる者の悲しさを表している。前歌の蛍に続き、夏の虫と火を恋に結びつけている。

 初句「夏虫の」は、夏の夜に灯火に集まる虫のことで、火に飛び込んで身を滅ぼすものとされた。
 二句「身をいたづらに」の「いたづらに」は、むなしく、無駄にの意である。
 三句「なすことも」は、することもの意で、虫が身を滅ぼすことを指している。
 四句「ひとつおもひに」の「おもひ」は、恋の「思ひ」に「火」を掛けた掛詞である。「ひとつ」は、虫と自分とが同じ一つの火によるという意と、ひたすらな一つの思いの意を重ねている。
 結句「よりてなりけり」は、よるのであったの意で、「けり」は気づきの詠嘆を表す。前歌の第五百四十三首の蛍の「燃え」を受け、火に身を焼く虫へと展開している。

なつむし:夏の夜に灯火に集まる虫
いたづらなり:むなしい、無駄である
おもひ:恋の思いの意と、火を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
明けたてば蝉のをりはへ鳴き暮らし 夜は蛍の燃えこそわたれ
次の歌
夕さればいとど干がたきわが袖に 秋の露さへ置き添はりつつ