古典和歌stream

うたた寝に恋しき人を見てしより
夢てふものは頼みそめてき

歌の意味
うたた寝の夢に恋しい人を見てからというもの、夢というものを頼みに思い始めてしまった。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 553

詞書「題しらず」
 うたた寝の夢で恋しい人に逢ってから、はかないはずの夢というものを頼りにするようになったと詠む歌である。現実では逢えない恋の苦しさが、夢にすがるほかない心として素直に表されている。前歌で夢に逢えた驚きを詠み、この歌ではその夢を頼みとする心の変化を詠んでおり、小町の夢の歌の一連の二首目にあたる。
 作者の小野小町は、平安時代前期の歌人である。六歌仙、三十六歌仙の一人で、仁明天皇の頃に宮廷に仕えたとされるが、出自や経歴には不明な点が多い。
 なお本文の結句は「思みそめてき」とあり、読み仮名の行の「たのみそめてき」と一致しない。「思み」では語として読めないため、ここでは読み仮名の行に従い「頼み」とした。

 初句「うたた寝に」 「うたた寝」は床に就かずにうとうとと眠ることである。前歌の第五百五十二首が恋しい人を思いながらの眠りを詠んだのに対し、ここでは思いがけないうたた寝の夢を詠み、眠りの趣が対をなす。
 二句「恋しき人を」 「恋しき人」は現実には逢うことのかなわない相手である。
 三句「見てしより」 「て」は完了、「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「より」は起点を表し、夢に見てからというもの、の意である。
 四句「夢てふものは」 「てふ」は「といふ」がつづまった形である。係助詞「は」で夢を取り立て、はかないものの代表である夢をあえて頼りとする逆説を示す。
 結句「頼みそめてき」 「頼む」はあてにする意、「そむ」は初めてそうする意で、「てき」は完了と過去の助動詞が重なり、頼みに思い始めてしまったと確かめるように結ぶ。

うたたね:床に入らずにうとうとと眠ること
たのむ:あてにする、頼りにする
そむ:(動詞の連用形に付いて)〜し始める
作者
小野小町
出典
古今和歌集
前の歌
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを
次の歌
いとせめて恋しき時はむばたまの 夜の衣を返してぞ着る