古典和歌stream

わが恋はみ山隠れの草なれや
しげさまされど知る人のなき

歌の意味
私の恋は深い山に隠れて生える草なのだろうか。茂りはますます深まるけれど、それを知る人はいない。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 560

詞書「寛平御時后の宮の歌合の歌」
 自分の恋を、人の目の届かない深山に生える草にたとえ、思いは募る一方なのに誰にも知られないと嘆く歌である。草の茂りと恋心の激しさを重ねる比喩が中心となり、秘めた恋の孤独が表されている。寛平御時后宮歌合での作で、同歌合の歌が並ぶ一連の中に置かれている。
 作者の「をののよしき」は小野美材である。平安時代前期の官人で、小野篁の孫にあたる。文章生から大内記となり、信濃権介などを務めた。漢詩文にも優れた。

 初句「わが恋は」 係助詞「は」で自分の恋を主題として示し、以下にその比喩を展開する。「わが恋は」で始まる歌は本巻に多く、本巻の第五百九十七首、第六百十一首も同じ初句で起こしている。
 二句「み山隠れの」 「み山」は奥深い山、「み山隠れ」は深山の奥に隠れていることで、人目に触れないさまを表す。
 三句「草なれや」 「なれや」は已然形に疑問の「や」が付いた形で、草だからだろうかの意である。「や」は結句の「なき」と係り結びをなす。ここで句切れとなる。
 四句「しげさまされど」 「しげさ」は草の茂りと、恋の思いの激しさとを重ねて言う。「まされど」は増すけれどもの意で、逆接で結句へ続く。
 結句「知る人のなき」 「や」の結びとして連体形「なき」で結ぶ。思いが深まるほど誰にも知られない孤独が際立つ。

みやまがくれ:奥深い山の陰に隠れていること
しげさ:草の茂り具合と、恋の思いの激しさとを重ねて言う
作者
小野美材
出典
古今和歌集
前の歌
住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
次の歌
宵の間もはかなく見ゆる夏虫に 迷ひまされる恋もするかな