古典和歌stream

死ぬる命生きもやすると試みに
玉の緒ばかり逢はむと言はなむ

歌の意味
恋のために死にかけている命が生き返りもするかと、試しに、ほんのわずかな間だけでも逢おうと言ってほしい。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 568

詞書「寛平御時后の宮の歌合の歌」
 恋のために死にそうな自分の命が、あるいは生き返るかもしれないので、試しにほんの少しの間だけでも逢おうと言ってほしいと相手に願う歌である。「玉の緒」の語に命と短い時間の両方を響かせ、せめて一言の約束がほしいという切実な訴えを、誇張をまじえて詠んでいる。寛平御時后宮歌合での作で、同歌合の歌が並ぶ一連の中に置かれている。
 作者の「藤原おきかせ」は藤原興風である。平安時代前期の歌人で、藤原浜成の曽孫、藤原道成の子。相模掾、下総権大掾などを務めた。琴の名手としても知られ、三十六歌仙の一人である。

 初句「死ぬる命」 恋のために今にも尽きようとしている命を言う。六音の字余りの句である。
 二句「生きもやすると」 「や」は疑問の係助詞で、生き返りもするかと、の意である。「死ぬる」と「生き」が対をなす。
 三句「試みに」 試しにの意で、本文は「心み」と表記する。
 四句「玉の緒ばかり」 「玉の緒」は玉を貫く緒のことで、命の意と、緒の短さからわずかな間の意とを表す。ここではほんの少しの間だけでもの意で、初句の「命」とも響き合う。
 結句「逢はむと言はなむ」 「なむ」は他に対する願望の終助詞で、逢おうと言ってほしいと結ぶ。実際に逢うことよりも、逢おうという言葉だけでも求める切なさがある。

たまのを:命。また、ごく短い間
作者
藤原興風
出典
古今和歌集
前の歌
君恋ふる涙の床に満ちぬれば みをつくしとぞ我はなりぬる
次の歌
わびぬれば強ひて忘れむと思へども 夢といふものぞ人頼めなる