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わびぬれば強ひて忘れむと思へども
夢といふものぞ人頼めなる

歌の意味
つらく思い悩んでいるので、無理にでも忘れようと思うけれど、夢というものは人に期待を抱かせるものだ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 569

詞書「寛平御時后の宮の歌合の歌」
 恋に苦しむあまり、無理にでも相手を忘れようと思うのに、夢に相手が現れては期待を抱かせるので忘れられないと詠む歌である。忘れようとする意志と、夢によって呼び覚まされる思いとのせめぎ合いが描かれている。本巻冒頭の小町の歌が夢を頼みとしたのに対し、ここでは夢が忘却を妨げるものとして詠まれている。寛平御時后宮歌合での作で、同歌合の歌が並ぶ一連の中に置かれている。
 作者の「藤原おきかせ」は藤原興風である。平安時代前期の歌人で、藤原浜成の曽孫、藤原道成の子。相模掾、下総権大掾などを務めた。琴の名手としても知られ、三十六歌仙の一人である。

 初句「わびぬれば」 「わぶ」は思い悩む、つらく思う意で、「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形、「ば」は確定条件を表し、つらく思い悩んでいるのでの意となる。
 二句「強ひて忘れむと」 「強ひて」は無理に、「む」は意志の助動詞である。八音の字余りの句である。
 三句「思へども」 逆接の「ども」で、忘れようと思うけれどもと四句以下へ転じる。
 四句「夢といふものぞ」 係助詞「ぞ」で夢を強く取り立て、結句の「なる」と係り結びをなす。本巻の第五百五十三首の「夢てふものは」と同じく夢そのものを主題とし、夢を頼む心と夢に悩まされる心とが対をなす。
 結句「人頼めなる」 「人頼め」は人に当てにさせること、期待を持たせることである。「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形で、「ぞ」の結びとなる。

わぶ:思い悩む、つらく思う
ひとだのめ:人に期待を持たせること、当てにさせること
作者
藤原興風
出典
古今和歌集
前の歌
死ぬる命生きもやすると試みに 玉の緒ばかり逢はむと言はなむ
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