- 歌の意味
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あなたを恋しく思って流す涙がもしなかったなら、唐衣の胸のあたりは、思いの火で色が燃えるように赤くなってしまうだろう。
- 鑑賞
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巻第十二 恋歌二 572
詞書「寛平御時后の宮の歌合の歌」
あなたを恋い慕う涙がなかったなら、胸に燃える思いの火のために、衣の胸のあたりは燃え上がるように色づいてしまうだろうと詠む歌である。「思ひ」に「火」を重ねる趣向を用い、涙がその火を消しているという反実仮想の発想によって、涙の多さと思いの激しさの両方を表している。寛平御時后宮歌合での作で、同歌合の歌が並ぶ一連の中に置かれている。本巻における同歌合の歌はこの歌で終わる。
作者の「紀つらゆき」は紀貫之である。平安時代前期の歌人で、紀望行の子。古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を記した。土佐守を務め、帰京の旅を描いた土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。
初句「君恋ふる」 あなたを恋しく思うの意で、二句の「涙」を修飾する。本巻の第五百六十七首と同じ初句で、同じ歌合の歌として涙の誇張を詠む点も共通する。
二句「涙しなくは」 「し」は強意の副助詞、「なくは」は形容詞「なし」の連用形に係助詞「は」が付いた仮定の形で、もし涙がなかったならの意となる。
三句「唐衣」 「唐衣」は衣の美称で、四句の「胸のあたり」へ続ける。
四句「胸のあたりは」 胸は恋の思いが燃える場所であり、衣の胸のあたりと重ねて言う。
結句「色燃えなまし」 「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形、「まし」は反実仮想の助動詞で、燃えるような色になってしまっただろうの意である。涙が思いの火を消しているという発想で結ぶ。
からころも:衣の美称
- 作者
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紀貫之
- 出典
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古今和歌集
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恋しきにわびて魂迷ひなば むなしき殻の名にや残らむ
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世とともに流れてぞ行く涙川 冬も凍らぬ水泡なりけり