音に泣きてひちにしかども春雨に
濡れにし袖と問はば答へむ
- 歌の意味
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声を上げて泣いて袖を濡らしたのだけれど、人に尋ねられたら、春雨に濡れた袖だと答えよう。
- 鑑賞
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巻第十二 恋歌二 577
詞書「題しらず」
声を上げて泣いたために袖が濡れてしまったが、人に尋ねられたら春雨に濡れた袖だと答えようと詠む歌である。恋の涙であることを人に知られまいとして、春雨のせいにしようとする心に、忍ぶ恋の切なさが表れている。前歌が人目を忍んで袖を絞る涙を詠んだのを受け、ここでは濡れた袖を人に問われた時の言い訳を用意する心を詠む。
作者の大江千里は、平安時代前期の歌人、漢学者である。大江音人の子で、宇多天皇の命により漢詩の句を題に和歌を詠んだ句題和歌を献上した。小倉百人一首にも歌が採られている。
初句「音に泣きて」 「音に泣く」は声を上げて泣く意である。六音の字余りの句である。
二句「ひちにしかども」 「ひつ」は濡れる意、「に」は完了、「しか」は過去の助動詞「き」の已然形で、逆接の「ども」が付き、濡れてしまったけれどの意となる。
三句「春雨に」 春の雨は細やかに降り続くもので、袖を濡らす口実とされる。
四句「濡れにし袖と」 春雨に濡れてしまった袖だと、の意である。二句の「ひちにし」と対応させ、涙で濡れた袖を雨で濡れた袖と言い換える。
結句「問はば答へむ」 「ば」は仮定条件、「む」は意志の助動詞で、人が尋ねたらそう答えようと結ぶ。前歌の第五百七十六首の「しのびに」と同じく、恋の涙を人に隠そうとする心を詠む。
ねになく:声を上げて泣く
ひつ:濡れる、ぬれ浸る
- 作者
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大江千里
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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いつはりの涙なりせば唐衣 しのびに袖はしぼらざらまし
- 次の歌
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わがごとくものや悲しきほととぎす 時ぞともなく夜ただ鳴くらむ