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人を思ふ心は雁にあらねども
雲居にのみもなきわたるかな

歌の意味
人を恋しく思う心は雁ではないけれど、雁が遠い空の上で鳴きながら渡るように、手の届かぬ遠くでばかり泣き続けていることだ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 585

詞書「題しらず」
 人を恋い慕う心は雁ではないけれど、雁が遥かな空を鳴きながら渡ってゆくように、自分も遠く及ばない相手を思って泣き続けていると詠む歌である。秋に渡ってくる雁の姿に、手の届かない高みの人を慕う恋心を重ね、「鳴き」と「泣き」を掛けている。本巻ではこのあたりに秋の景物を詠み込む歌がまとまって置かれている。
 作者の「ふかやふ」は清原深養父である。平安時代前期から中期の歌人で、清原元輔の祖父、清少納言の曽祖父にあたる。内匠允などを務め、琴の名手としても知られる。

 初句「人を思ふ」 人を恋しく思うの意で、二句の「心」を修飾する。六音の字余りの句である。
 二句「心は雁に」 「雁」は秋に北方から渡ってくる鳥で、空高く鳴きながら渡る姿が詠まれる。
 三句「あらねども」 「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で、雁ではないけれどもの意となる。
 四句「雲居にのみも」 「雲居」は雲のある所、はるかな空の意で、手の届かない遠く高い所を暗示する。
 結句「なきわたるかな」 「なき」は雁が「鳴き」と、自分が「泣き」とを掛けた掛詞である。「わたる」は空を渡る意と、ずっと〜し続ける意とを重ねる。前歌の第五百八十四首と同じく秋の景物を用い、秋の夜の稲葉から秋の空の雁へと景が移っていく。

くもゐ:雲のある所、はるかな空
なく:雁が「鳴く」意と、人が「泣く」意を掛ける
わたる:空を渡る。また、ずっと〜し続ける
作者
清原深養父
出典
古今和歌集
前の歌
ひとりして物を思へば秋の夜の 稲葉のそよといふ人のなき
次の歌
秋風にかきなす琴の声にさへ はかなく人の恋しかるらむ