夏虫を何か言ひけむ心から
我もおもひに燃えぬべらなり
- 歌の意味
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火に飛び込む夏虫を、どうして愚かだなどと言ったのだろう。自分の心から、私も恋の思いの火に燃えてしまいそうだ。
- 鑑賞
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巻第十二 恋歌二 600
詞書「題しらず」
自ら火に飛び込んで身を焼く夏虫を、これまで愚かなものと言ってきたが、どうしてそんなことを言ったのだろう、自分も自らの心から恋の思いの火に燃えてしまいそうだと詠む歌である。他人事として見ていた夏虫の愚かさを、いま自分が身をもって知ることになったという発見に、恋の抑えがたさが表れている。
作者の「みつね」は凡河内躬恒である。平安時代前期の歌人で、古今和歌集の撰者の一人。甲斐少目、和泉大掾などの地方官を務めたが、歌才は高く評価された。三十六歌仙の一人である。
初句「夏虫を」 「夏虫」は灯火に集まって身を焼く蛾などの虫である。本巻の第五百六十一首で友則が夏虫よりも迷いのまさる恋を詠んだのと同じ景物を用い、巻中で呼応する。
二句「何か言ひけむ」 「何か」はどうして、「けむ」は過去の原因推量で、どうして夏虫を愚かだなどと言ったのだろうの意となる。ここで句切れとなる。
三句「心から」 自分の心から、自ら進んでの意である。夏虫が自ら火に入るのと同じく、自分も自ら恋に身を投じることを言う。
四句「我もおもひに」 「おもひ」は「思ひ」の「ひ」に「火」を掛けた掛詞で、夏虫の飛び込む火と恋の思いとを重ねる。
結句「燃えぬべらなり」 「ぬ」は完了、「べらなり」は推量の助動詞で、燃えてしまいそうだの意となる。「燃え」は「火」の縁語である。
なつむし:夏の夜、灯火に集まって身を焼く蛾などの虫
おもひ:「思ひ」の「ひ」に「火」を掛ける
- 作者
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凡河内躬恒
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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白玉と見えし涙も年ふれば 唐紅にうつろひにけり
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風吹けば峰に別るる白雲の 絶えてつれなき君が心か