古典和歌stream

君をのみ思ひ寝に寝し夢なれば
わが心から見つるなりけり

歌の意味
あなたのことばかりを思いながら寝て見た夢なので、あなたが来てくれたのではなく、私の心から見た夢だったのだ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 608

詞書「題しらず」
 あなたのことばかり思いながら寝て見た夢であるから、あなたが私を思って夢に現れたのではなく、私の心が見せた夢だったのだと気づく歌である。当時は相手が自分を思うとその人が夢に現れるとも考えられており、夢に逢えた喜びが、それは自分の思いのためにすぎないという寂しい気づきへと転じている。本巻冒頭の小町の歌と同じく、思いながら寝て見る夢を詠む。
 作者の「みつね」は凡河内躬恒である。平安時代前期の歌人で、古今和歌集の撰者の一人。甲斐少目、和泉大掾などの地方官を務めたが、歌才は高く評価された。三十六歌仙の一人である。

 初句「君をのみ」 「のみ」は限定で、あなただけをの意である。
 二句「思ひ寝に寝し」 「思ひ寝」は人を思いながら寝ることである。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。本巻の第五百五十二首の「思ひつつ寝ればや」と同じく、思いながら寝て見る夢を詠む。
 三句「夢なれば」 已然形に「ば」が付いた確定条件で、夢であるからの意である。
 四句「わが心から」 自分の心からの意で、相手の思いによるのではなく自分の思いによって、の意を強調する。本巻の第六百首の「心から」と同じ語である。
 結句「見つるなりけり」 「つる」は完了、「なり」は断定、「けり」は気づきの詠嘆で、自分の心が見せた夢だったのだと気づいて結ぶ。次歌の第六百九首も「なりけり」で結び、夢を詠む二首が並ぶ。

おもひね:人を思いながら寝ること
作者
凡河内躬恒
出典
古今和歌集
前の歌
言に出でて言はぬばかりぞ水無瀬川 下に通ひて恋しきものを
次の歌
命にもまさりて惜しくあるものは 見果てぬ夢の覚むるなりけり