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命にもまさりて惜しくあるものは
見果てぬ夢の覚むるなりけり

歌の意味
命よりもいっそう惜しいものは、見終わらないうちに夢が覚めてしまうことであったよ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 609

詞書「題しらず」
 この世で最も惜しいはずの命よりも、なお惜しいものは、恋しい人に逢う夢が見終わらないうちに覚めてしまうことだと詠む歌である。命と夢を比べる大胆な誇張によって、夢の中でしか逢えない恋の切なさを表している。本巻冒頭の小町の歌と同じく、夢から覚めることを惜しむ心を詠み、巻頭の夢の歌と呼応する。
 作者の「たたみね」は壬生忠岑である。平安時代前期の歌人で、壬生忠見の父。下級官人であったが、古今和歌集の撰者の一人に選ばれた。三十六歌仙の一人である。

 初句「命にも」 「も」は強調で、あの惜しい命よりもの意を含む。本巻の巻末の第六百十五首は、逢うことと引き換えなら命も惜しくないと詠んでおり、命の惜しさをめぐって二首が対照をなす。
 二句「まさりて惜しく」 命よりもいっそう惜しくの意である。
 三句「あるものは」 係助詞「は」で主題を示し、四句以下で答えを示す構成をとる。
 四句「見果てぬ夢の」 「見果つ」は最後まで見終わる意で、「ぬ」は打消の連体形である。見終わらない夢を言う。
 結句「覚むるなりけり」 「なり」は断定、「けり」は気づきの詠嘆である。本巻の第五百五十二首の「覚めざらましを」、第五百七十五首の「起き憂かりける」と同じく、夢から覚めることへの未練を詠み、前歌の第六百八首と同じ「なりけり」で結ぶ。

をし:惜しい、手放したくない
みはつ:最後まで見終わる
作者
壬生忠岑
出典
古今和歌集
前の歌
君をのみ思ひ寝に寝し夢なれば わが心から見つるなりけり
次の歌
梓弓引けば本末わが方に よるこそまされ恋の心は