命やは何ぞは露のあだものを
逢ふにしかへば惜しからなくに
- 歌の意味
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命などいったい何だというのか。露のようにはかないものなのに。あなたに逢うことと引き換えにするならば、少しも惜しくはない。
- 鑑賞
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巻第十二 恋歌二 615
詞書「題しらず」
命などは露のようにはかないものにすぎず、恋しい人に逢うことと引き換えにできるなら少しも惜しくないと詠む歌である。命を投げ出してもよいほどに逢うことを願う激しい恋心が、強い反語と詠嘆によって表されている。恋歌二の巻末に置かれた歌で、逢うことを命に代えても求める思いによって巻を締めくくっている。
作者の「とものり」は紀友則である。平安時代前期の歌人で、紀有友の子、紀貫之の従兄弟にあたる。大内記などを務め、古今和歌集の撰者の一人に任じられたが、完成を見ずに没した。三十六歌仙の一人である。
初句「命やは」 「やは」は反語を表す係助詞で、命など何であろうかと強く打ち消す。本巻の巻頭の第五百五十二首が夢でしか逢えない恋を詠み起こしたのに対し、巻末のこの歌は命に代えても逢いたいという願いで結び、巻頭と巻末とが「逢ふ」ことへの思いで呼応している。
二句「何ぞは露の」 「何ぞは」は何であろうか、何でもないの意で、初句の反語を重ねて強める。「露」は消えやすいはかないもののたとえである。
三句「あだものを」 「あだもの」ははかないもの、むなしいものの意で、「を」は逆接をこめた詠嘆である。露のようにはかないものなのにの意となる。
四句「逢ふにしかへば」 「し」は強意の副助詞、「かふ」は引き換える意で、逢うことと引き換えにするならばの意となる。
結句「惜しからなくに」 「なくに」は打消に詠嘆がこもった形で、惜しくはないのにと結ぶ。本巻の第六百九首が命にまさって夢の覚めることを惜しんだのと対照的に、ここでは逢うことのためなら命は惜しくないと言い切っている。
あだもの:はかないもの、むなしいもの
かふ:引き換える、交換する
- 作者
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紀友則
- 出典
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古今和歌集
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頼めつつ逢はで年ふるいつはりに 懲りぬ心を人は知らなむ
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起きもせず寝もせで夜を明かしては 春のものとてながめ暮らしつ