古典和歌stream

秋の野に笹分けし朝の袖よりも
逢はで来し夜ぞひちまさりける

歌の意味
秋の野で露に濡れた笹を分けて帰った朝の袖よりも、逢えずに帰ってきた夜の袖の方が、涙でいっそうひどく濡れたことだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 622

詞書「題しらず」
 秋の野の笹を分けて帰った朝の袖は露でひどく濡れるが、逢えずに帰った夜の袖の方が涙でもっと濡れると詠む歌である。露に濡れた後朝の袖と比べることで、逢えなかった悲しみの深さを際立たせている。
 作者の「なりひらの朝臣」は在原業平である。阿保親王の五男で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。
 この歌は『伊勢物語』第二十五段にも見え、そこでは次歌の小野小町の歌と組み合わされ、逢わない女に贈った歌として語られている。

 初句「秋の野に」は、露の多い秋の野を示し、濡れる袖を導く舞台を設定する。
 二句「笹分けし朝の」は、笹を分けて帰った朝、の意で、逢瀬の後に野を帰る後朝の朝を示す。過去「き」の連体形「し」を用いる。
 三句「袖よりも」は、比較の格助詞「より」で、露に濡れた袖を比較の基準とする。
 四句「逢はで来し夜ぞ」は、逢わずに帰ってきた夜が、の意で、係助詞「ぞ」で強調する。
 結句「ひちまさりける」は、いっそう濡れまさったことだ、の意で、詠嘆の「けり」の連体形「ける」で「ぞ」を結ぶ係り結びである。

ひつ:水に濡れる、浸る
作者
在原業平
出典
古今和歌集
前の歌
逢はぬ夜のふる白雪と積もりなば 我さへともに消ぬべきものを
次の歌
みるめなき我が身をうらと知らねばや かれなで海人の足たゆく来る